平成30年度研修医

澤田浩美

私は昭和61年に東京女子医大を卒業し、以来長いこと消化器外科医として働いて来ました。消化器外科としての知識・経験は他では得難いものでしたが、致死的疾患に罹患した患者さんたちの絶望や哀しみに対処できないことがある度に、心にすきま風が吹くような、やるせない思いを抱えてきました。それが年々徐々に積み重なり、精神科へ進みたいという気持ちが強くなってきました。そしてついに精神科医になることを真面目に考え始めたのですが、もし精神科医になるとしたら180度の方向転換ですし、そんな自分が受けいれられるところがあるのかと強い不安を抱える日々でした。しかし北大精神科に見学に行った際、他職を経験した後に精神科医になった人も多いから大丈夫!と励ましていただき、このほど入局を決意した次第です。

入局してみると、実際に多様な職歴のドクターが在籍しており、安心しました。それでも当初は自分の経歴の特殊性からか少し緊張していたように思いますが、研修を始めてみると「多様というなら患者さんの人間史ほど十人十色のものはない」と気付きました。そして指導医の先生方から、精神科診療においては、長大な病歴は個々の患者さんの人生図であると理解すること、その物語を大きく変えずに着地点を探すのが必要であることを教わりました。さらに、そのためには疾患理解に留まらず、その人は元来どんな人で、何に価値を感じ、これからどんな人生を歩みたいのかを把握することこそが重要だと指導され、ここまでしっかりと人生に寄り添う診療があるんだということを知りました。そういった診療方法を実践し、人の営みの多様さを目の当たりにする度に、過度に緊張していた自分がちょうど良く気を抜けるようになった気がします。そして、二色目の人生を歩みつつある私は、十人十色な患者さんたちにほんの少しだけ役に立てるかもしれない、と自分の人生においても新たな意味を獲得したように感じます。

今後、わたしは後期研修で精神科医療の基本をしっかり身に付けることを目標にしています。そしてその後は、重篤な身体疾患を持つ患者さんの絶望や悲しみに寄り添えるように、研鑽を積みたいと考えています。

いま入局を迷っている色んな経歴を持つ方々、北大精神科には心のすきま風を止めてくれるような、どんな人でも受け入れてくれるような、そんな懐の深さがあるように思います。ぜひ一度見学に来ていただけると嬉しいです。