令和4年業績 学位
日本におけるFive to Fifteen(FTF)の因子構造とADHD児への臨床応用
(Factor analysis of Five to Fifteen (FTF) in Japanese children and its clinical application to children with ADHD)
前田 珠希
【背景と目的】
Five to Fifteen(FTF)の構造は、これまで探索的因子分析や主成分分析を用いて検討されてきたが、本邦においてはまだない。本研究では、日本語版FTFの因子構造を明らかにし、ADHD集団に対するFTFの有用性を評価することを目的とした。
【対象と方法】
2017年1月に札幌市の小中学校の児童を対象とし、性別、年齢とFTFの結果を解析した。項目-全体相関で、相関係数が0.4以下の項目は除外した。因子分析は,プロマックス回転による最尤法によって行った。2016年5月から2019年5月に当科を初診したADHD児から、性別や年齢、FTF、CBCL、ADHD-RS IVを調査した。CBCL、ADHD-RS Ⅳとの関連について、Spearmanの順位相関係数を用いて評価した。多重比較の影響を考慮し、Bonferroniの補正を用いた。質問紙のブランクが5%以上あるものを除き、ADHD群では41人、一般群では376人が対象となった。
【結果】
FTFは 4 因子に分かれ、因子 1 を言語と学習の困難、因子 2 を多動・衝動性、因子 3を不注意、実行機能の困難、因子4を社会スキルの困難と命名した。因子 2 とADHD-RS IVの多動性・衝動性スコアの間に強い正の相関がみられた。因子 3 と不注意の間には中程度の正の相関がみられた。因子 1 はCBCLの Attentionと正の相関を示した。因子 2 はDelinquent、Aggressive、Externalizing、Totalと正の相関があった。因子 3 はAttentionと正の相関を示した。因子 4 は、Withdraw、Somatic complains、Social、Attention、Delinquent、Internalizing、Totalと正の相関があった。Mann-WhitneyのU検定で各因子のスコアは、ADHD群が一般群よりも有意に高かった。
【考察と結論】
4つの因子は、Cronbachのα係数から、十分な内部一貫性を持つことがわかった。 4 因子のうち 3 因子は十分な外部妥当性を示した。因子 2 とADHD-RS IVの多動性・衝動性スコアの間には正の相関があり、因子 3 と不注意の間には正の相関がみられたことから、因子 2 と因子 3 は、ADHDの一次症状を説明できると考えられた。因子 4 とCBCLの内向性、不安・抑うつ、社会性、注意、非行、内向性の各尺度との相関は、この因子が社会的引きこもりや内向的問題の指標にもなりうることを示唆した。ADHD群は、一般群に比べてすべての因子で有意に高いスコアを示した。ADHDの発達上の問題は多様であり、FTFは、幅広い症状をカバーする評価尺度として、ADHD患者の評価に有用なツールであると考えられる。
気分障害に対する集団認知行動療法の効果予測に関する研究
(A study on predictors of treatment outcomes in cognitive behavioral group therapy for mood disorders)
(修士課程)服部 幸子
【背景と目的】
気分障害(うつ病、双極性障害)に対する非薬物療法として認知行動療法の有効性が示されており、集団で行うCBGT:(Cognitive Behavioral Group Therapy)が広がりを見せているが、どのような患者に有効なのかは明らかにされていない。 本研究では当科で行われているCBGTプログラムに参加した患者の臨床情報を用いて、気分障害患者に対するCBGTの有効性を確認するとともに、WAIS(ウェクスラー成人知能検査)とロールシャッハテストでCBGTの短期的効果の予測因子を同定することを目的とした。
【対象と方法】
当科のCBGTプログラムに参加した気分障害患者96例を対象とした。プログラム前後でBDI(主観的抑うつ)、ATQ-R(自動思考)、JIBT(スキーマ)、SDISS(主観的生活機能障害)、SF-36v2(主観的QOL)、HRSD-17(抑うつ症状)、GAF(全般的機能)を評価し、その変化をWilcoxonの順位検定で解析した。次に効果予測因子を調査するために、BDIとATQ-Rのプログラム前後での変化量と、WAIS、ロールシャッハテスト(包括システム)との相関をSpearmanの相関分析で解析した。
【結果】
CBGT前後で、BDI、HRSD-17、GAF、ATQ-R、SDISS、SF-36v2が有意な改善を示した。効果予測因子に関しては、双極性障害群で知覚統合の群指数がBDIやATQ-Rの変化量と有意な負の相関を認めた。また対象者のFIQは66~123と幅広かったが、BDIやATQ-Rの変化量と相関していなかった。うつ病群においてはBDIの変化量とロールシャッハテストのDd(特殊部分反応)、W:M(全体反応:人間運動反応)が有意な正の相関を、S-CON(自殺の可能性指標)、FD(形態立体反応)が有意な負の相関を示し、ATQ-Rの変化量とDスコア、修正Dスコア、Dd、W:M、3r+(2)/R(自己中心性指標)が有意な正の相関を、CDI(対処力不全指標)、S-CON、FDが有意な負の相関を示した。双極性障害群においては、BDIの変化量とロールシャッハテストのH(人間反応)、An+Xy(解剖反応、X線写真反応)が有意な負の相関を示し、ATQ-Rの変化量とDスコアが有意な負の相関を示した。
【考察】
CBGTプログラムの前後で抑うつ症状や社会機能障害、自動思考、主観的QOLが改善したことが確認された。効果予測因子に関しては、主観的抑うつの改善を予測する因子としてうつ病群ではロールシャッハテストの自殺の可能性指標のほか、情報処理の統合が得意なことなどが同定され、双極性障害群ではWAISでの知覚統合の能力の高さ、ロールシャッハテストでの他者への関心の高さなどが同定された。WAISのFIQは主観的抑うつや否定的自動思考の改善とは相関しておらず、境界域知能であってもCBGTが有効であることが示唆された。うつ病患者と双極性障害患者で効果予測因子が全く異なっており、ロールシャッハテストのDスコアのように逆相関を示したものもあった。うつ病と双極性障害では、CBGTを実施する上でのモデルや用いるスキルも異なっている部分があり、効果予測因子も異なっている可能性が考えられた。本研究は単施設での研究であることや層別解析や多変量解析を行うには症例数が不十分であること、有意水準について補正が行われていないことなどの限界が存在している。
【結論】
気分障害患者に対するCBGTの有効性が確認された。効果予測因子としてWAISとロールシャッハテストのいくつかの項目が同定できたが、うつ病と双極性障害では効果予測因子が全く異なることが明らかとなった。全般的知的能力は効果と相関せず、境界域知能の患者に対してもCBGTは適応可能であることが示唆された。今後研究デザインを洗練し、症例数を増やすことでさらに精度の高い効果予測因子が同定され、CBGTの適応を見極めることができるようになることが期待される。