平成27年業績 論文

1.学術論文

  • Toda H, Inoue T, Tsunoda T, Nakai Y, Tanichi M, Tanaka T, Hashimoto N, Nakato Y, Nakagawa S, Kitaichi Y, Mitsui N, Boku S, Tanabe H, Nibuya M, Yoshino A, Kusumi I: The structural equation analysis of childhood abuse, adult stressful life events and temperaments in major depressive disorders and their influence on refractoriness. Neuropsych. Dis. Treat 11, 2079-2090, 2015
    多重ロジスティック回帰分析と構造方程式モデリングにより、うつ病患者群98名と健常群170名の小児期虐待歴、感情気質、ライフイベントにおける相違点を検討した。多重ロジスティック回帰分析の結果はネグレクト、循環・不安気質が抑うつ症状の程度とは独立に両群の区別に寄与していることを示した。さらに構造方程式モデリングでは、小児期虐待のうちネグレクト体験が循環および不安気質への増強効果を介して、両群の区別に寄与していた。したがって、小児期虐待がうつ病発症に及ぼす効果において感情気質が媒介因子の役割をはたしていることが示唆された。またネグレクトはうつ病の難治性化にも関連していた。
  • Ohga N, Yamazaki Y, Sato J, Hata H, Murata T, Sakata K, Inoue T, Kitagawa Y: Dose escalation effectiveness and tolerability of paroxetine in patients with burning mouth syndrome and depressive conditions. J Oral Maxillofac Surg Med Pathol 27, 402–406, 2015
    抑うつ症状を合併した舌痛症患者43例の痛み症状に対するparoxetineの効果をオープン試験で検討した。舌痛症の痛みをparoxetineは有意に改善し、その効果は用量依存的であった。
  • Tsujii N, Saito T, Izumoto Y, Usami M, Okada T, Negoro H, Iida J: Experiences with Patient Refusal of Off-Label Prescribing of Psychotropic Medications to Children and Adolescents in Japan. Journal of Child and Adolescent Psychopharmacology, [Epub ahead of print], 2015
    児童青年期患者への向精神薬の適応外使用の現状について、日本児童青年精神医学会医師会員1970人を対象にアンケート調査を実施した。対象者の91%に適応外使用の経験があり、81.0%が適応外使用について説明していたが、子どもにも説明したのは 33.6%であった。適応外使用について保護者にのみ説明するよりも、子どもにも説明するとき、適応外使用を拒否されることが多かった(32.4% vs.50.2%; p<0.001)。80.1%は適応外使用についてカルテ記載がなかった。
  • 成重竜一郎,川島義高,澤谷篤,齊藤卓弥,大久保善朗:救命救急センターにおける若年自殺未遂者の特徴,児童青年精神医学とその近接領域 56,179-189,2015
  • Hayashi Y, Okamoto Y, Takagaki K, Okada G, Toki S, Inoue T, Tanabe H, Kobayakawa M, Yamawaki S: Direct and indirect influences of childhood abuse on depression symptoms in patients with major depressive disorder. BMC psychiatry 15, 837, 2015
    大うつ病性障害患者113名の抑うつ症状に及ぼす小児期虐待、成人期否定的ライフイベント、パーソナリティ特性(NEO-FFI; 神経症傾向、外向性、開放性)の影響を構造方程式モデリングにより解析した。小児期虐待は直接的にと同時に、パーソナリティ特性を介して間接的に抑うつ症状の程度に対して増強する効果を示した。成人期ライフイベントの否定的評価は小児期虐待による影響を受けていた。本研究により、大うつ病性障害患者において、神経症傾向などのパーソナリティ特性が小児期虐待と抑うつ症状の間の媒介因子の役割をはたしていることが明らかになった。
  • Toda H, Inoue T, Tsunoda T, Nakai Y, Tanichi M, Tanaka T, Hashimoto N, Takaesu Y, Nakagawa S, Kitaichi Y, Boku S, Tanabe H, Nibuya M, Yoshino A, Kusumi I: Affective temperaments play an important role in the relationship between childhood abuse and depressive symptoms in major depressive disorder. Psychiatry Research 236, 142-147, 2016
    大うつ病性障害患者98名の抑うつ症状に及ぼす小児期虐待、成人期ライフイベント、感情気質(TEMPS-A)の影響を構造方程式モデリングにより解析した。小児期のネグレクト体験は抑うつ・循環・不安・焦燥の4つの感情気質を介して間接的に抑うつ症状を増強していた。成人期の否定的ライフイベントは虐待、気質とは独立に抑うつ症状を増強していたが、肯定的ライフイベントは抑うつ症状には影響していなかった。本研究により、大うつ病性障害患者において、感情気質が小児期虐待(ネグレクト)と抑うつ症状の間の媒介因子の役割をはたしていることが明らかになった。
  • Ballinger MD, Saito A, Abazyan B, Taniguchi Y, Huang CH, Ito K, Zhu X, Segal H, Jaaro-Peled H, Sawa A, Mackie K, Pletnikov MV, Kamiya A: Adolescent cannabis exposure interacts with mutant DISC1 to produce impaired adult emotional memory. Neurobiology of Disease 82, 176-184, 2015
    大麻は全世界で使用されている大衆的ドラッグである一方、問題も多い。大麻の使用は、しばしば思春期に始まるが、実はこの時期は環境刺激に対してとても敏感で、発達中の脳の機能や構造が容易に変化する。もし、思春期が精神疾患発症に決定的な役割をもつ時期であるなら、大麻暴露が脳の発達や後の機能にどのような影響を与えるのかは、最重要課題である。今回我々はDisrupted in Schizophrenia 1 (DISC1)遺伝子異常が、思春期の大麻暴露への反応を変化させ、後の精神特性に影響を与えることを初めて報告する。本結果は、遺伝子-環境連関、つまりこれら各々ではなく両者があいまって初めて精神に影響を与えうるという考え方に合致していた。まず我々はマウスを用いて、思春期にdelta-9-tetrahydrocannabinol (δ9-THC)(大麻の主な構成成分)を慢性投与し、ドミナント-ネガティブ型DISC1遺伝子改変(DN-DISC1)マウスでは恐怖関連記憶の欠落が悪化することを確認した。またDN-DISC1マウスと思春期にδ9-THCを投与した成獣群では、シナプスのカンナビノイド1受容体(CB1R)の発現が前頭前野や海馬、扁桃体など恐怖関連記憶に重要な脳部位でダウンレギュレーションしていた。さらにDN-DISC1マウスで状況依存的な恐怖記憶を再現すると、これらの脳部位においてc-Fos発現の上昇が低下していた。最後にDN-DISC1マウスに思春期δ9-THC投与を行った後、合図によって恐怖記憶を誘発するとc-Fosの発現が相乗的に低下した。これらの結果から、DN-DISC1マウスではCB1Rを介するシグナルが変化するため、思春期の大麻使用で通常よりも大きな影響が及び、成長後の行動にも多大な有害作用をもたらす可能性がある。
  • Nakato Y, Inoue T, Nakagawa S, Kitaichi Y, Kameyama R, Wakatsuki Y, Kitagawa K, Omiya Y, Kusumi I: Confirmation of the factorial structure of the Japanese short version of the TEMPS-A in psychiatric patients and general adults. Neuropsychiatric Disease and Treatment (in press), 2016
    精神疾患患者と一般成人を対象にし、感情気質を測定するTEMPS-A日本語版(39項目)の確認的因子分析を行ったが因子構造を確認できなった。探索的因子分析により18項目を抽出し、確認的因子分析を行ったところ因子構造が確認できた。18項目で構成されたTEMPS-A日本語版は臨床場面や大規模調査で有用と考えられる。
  • Hashimoto N, Suzuki Y, Kato TA, Fujisawa D, Sato R, Aoyama-Uehara K, Fukasawa M, Asakura S, Kusumi I, Otsuka K. Effectiveness of suicide prevention gatekeeper-training for university administrative staff in Japan. Psychiatry Clin Neurosci. 70, 62-70, 2016
    北海道大学の事務職員76名に対して、メンタルヘルスファーストエイド(MHFA)にもとづくゲートキーパー研修を実施した。研修の前後で、質問紙で測定された、自殺念慮を持つ学生の対応とその際の自信、意図する行動に有意な改善を認めた。この改善は研修1ヶ月後も持続していた。MHFAにもとづくゲートキーパー研修は、事務職員が自殺念慮をもつ学生への対応を学ぶ上で有効と思われた。
  • Toyomaki A, Hashimoto N, Kako Y, Tomimatsu Y, Koyama T, Kusumi I: Different P50 sensory gating measures reflect different cognitive dysfunctions in schizophrenia. Schizophrenia Research, Cognition 2(3) , 166-169, 2015
    クリック音パラダイムで誘発される聴覚誘発電位P50成分について、健常者では第2刺激に対するP50成分振幅が減衰することが知られておりsensory gatingの指標として考えられており、この障害は統合失調症の中間表現型指標である。我々は統合失調症患者を対象としてP50成分の振幅や振幅比と臨床的に評価される認知機能障害との関連を検討した。結果は振幅比は遂行機能と、第2刺激に対するP50成分振幅は持続的注意と相関することが分かった。sensory gatingはP50の振幅比だけしか扱われてこなかったが、振幅そのものの評価も重要であることが示された。
  • 北市 雄士,井上 猛,鈴木 克治,田中 輝明,本田 稔,中川 伸,久住 一郎,小山 司:双極性うつ病に対するfluvoxamine, milnacipran, paroxetineの有用度について,精神医学57,293-299,2015
  • Kazumata K, Tha KK, Narita H, Kusumi I, Shichinohe H, Ito M, Nakayama N, Houkin K: Chronic ischemia alters brain microstructural integrity and cognitive performance in adult moyamoya disease. Stroke 46, 354-60, 2015
    もやもや病(MMD)における前頭葉機能障害は未だ不明な点が多い。今回我々は、成人MMD患者の慢性虚血性変化による微小構造変化の有無、および認知機能障害との関連について検討を行った。3テスラのMRIを用いて23名のMMD患者と、年齢をマッチさせた健常者において撮像を行い灰白質密度、diffusion tensor imaging(DTI) を測定し、年齢、虚血性病変、血行動態、神経認知機能との関連について、検討を行った。その結果、外側前頭葉、帯状束、下頭頂葉のfractional anisotropy は作業速度、遂行機能障害、ワーキングメモリーと有意な相関を認めた。成人MMDにおいて、白質の異常は灰白質より顕著であり、認知機能障害において白質の障害は重要な役割を担っている可能性が示唆された。
  • Nakai Y, Inoue T, Chen C, Toda H, Toyomaki A, Nakato Y, Nakagawa S, Kitaichi Y, Kameyama R, Wakatsuki Y, Kitagawa K, Tanabe H, Kusumi I: The moderator effects of affective temperaments, childhood abuse and adult stressful life events on depressive symptoms in the nonclinical general adult population. J Affect Disord 187, 203-210, 2015
    一般成人288名を対象に、小児期虐待、成人期ライフイベント、感情気質が抑うつ症状に及ぼす交互作用を階層的重回帰分析により検討した。抑うつ気質は小児期虐待の抑うつ効果を増強したが、発揚気質は反対に抑制した。一方、焦燥気質は成人期の否定的なライフイベントの抑うつ効果を増強したが、発揚気質は反対に抑制した。成人期の肯定的なライフイベントは循環気質と不安気質の抑うつ効果を抑制した。小児期虐待は成人期の否定的なライフイベントの抑うつ効果を増強した。本研究により小児期虐待、成人期ライフイベント、感情気質間の交互作用が抑うつ症状に影響していることが明らかになった。
  • An Y, Inoue T, Kitaichi Y, Nakagawa S, Wang C, Chen C, Song N, Kusumi I: Subchronic lithium treatment increases the anxiolytic-like effect of mirtazapine on the expression of contextual conditioned fear. Eur J Pharmacol 747, 13-17, 2015
    Mirtazapineの抗不安様効果の増強療法について検討した。リチウムとmirtazapineの併用は、文脈的恐怖条件付けモデルにおいて、抗不安様効果を有意に増強した。これまでの脳内微小透析実験によれば、mirtazapineの投与は海馬のセロトニン濃度を増加させ、リチウムの亜慢性投与も海馬ならびに内側前頭前野のセロトニン濃度を増加させる。これらのことから、リチウムによる抗不安様効果増強作用は、海馬セロトニン神経伝達の増強を介している可能性が示唆される。

2.症例報告

  • 賀古勇輝,久住一郎:特集これでいいのかうつ病治療:どうしたらいい よくならない抑うつ症状Ⅰ いわゆる「現代的な」うつ病の長期治療経過,精神科臨床サービス16,36-38,2016
  • 藤井泰,久住一郎:特集これでいいのかうつ病治療:どうしたらいい よくならない抑うつ症状Ⅰ 前景化する身体的愁訴により適切な診断に至らず症状が遷延した老年期うつ病の一例,精神科臨床サービス16,39-41,2016
  • 豊島邦義,久住一郎:特集これでいいのかうつ病治療:どうしたらいい よくならない抑うつ症状Ⅰ 寛解期に施行した認知機能検査が服薬アドヒアランスの向上に寄与した反復性うつ病の一例,精神科臨床サービス16,42-45,2016

3.総説

  • Kusumi I, Boku S, Takahashi Y: Psychopharmacology of atypical antipsychotic drugs: From the receptor binding profile to neuroprotection and neurogenesis. Psychiatry Clin Neurosci 69, 243-258, 2015
    非定型抗精神病薬の薬理学的機序について、受容体結合特性や神経伝達物質調節、さらには神経保護や神経新生の観点からレビューを行った。「非定型性」の薬理学的背景には、セロトニン5-HT2A/2C、5-HT1A、5-HT6、5-HT7受容体などの5-HT受容体に対する高親和性、ドパミンD2受容体への低親和性やD2受容体部分作動などによるドパミン調節、さらにはグルタミン酸系の調節が関係している。また、グルコーゲン合成酵素キナーゼ(GSK)-3βが5-HT系と脳由来神経栄養因子(BDNF)系の双方の機序を介して、一定の役割を果たしている可能性もある。
  • 久住一郎:ゼプリオンから何を学ぶか,精神科治療学 30,955-956,2015
  • 久住一郎:新規向精神薬開発の現状と課題,臨床精神薬理 18,1383-1388,2015
  • 戸田裕之,井上猛,朴秀賢,吉野相英:幼少期のストレス,臨床精神医学 44,489-496, 2015
  • 齊藤 卓弥:児童・青年期における自殺の危険因子と保護因子―何がどこまで明らかにされているのかー,精神科治療学 30,497-504,2015
  • 齊藤 卓弥:DSM-5による児童思春期精神科医療へのインパクト,精神医学 57,620-623,2015
  • 朝倉 聡:社会不安障害の診断と治療,精神神経学雑誌 117,413-430,2015
  • 朝倉 聡:社交不安症の診断と評価,不安症研究 7,4-17,2015
  • 櫻井高太郎:Zonisamide,精神科治療学 30,1091-1094,2015
  • Koga M, Serritella AV, Sawa A, Sedlak TW: Implications for reactive oxygen species in schizophrenia pathogenesis. Schizophrenia Research, 2015
  • Chen C, Intelligence moderates reinforcement learning: a mini-review of the neural evidence. J Neurophysiol. 113:3459-3461, 2015
  • Chen C, Takahashi T, Nakagawa S, Inoue T, Kusumi I. Reinforcement learning in depression: A review of computational research. Neurosci Biobehav Rev 55, 247-267, 2015

4.解説・評論・その他

  • 齊藤 卓弥:重篤気分調節症,精神科治療学 30巻増刊号,90-92,2015
  • 齊藤 卓弥:児童・思春期のうつ病,精神科治療学 30巻増刊号,121-123,2015
  • 齊藤卓弥:DSM-5と成人期ADHDの適性診断について,精神神経学雑誌 117,756-762,2015
  • 栗田紹子:Lamotrigineの単剤療法,臨床精神薬理18,605-1612,2015
  • 藤井泰:成人神経性無食欲症の特性に着目した神経-社会認知機能によるクラスター化,心身医学 55,1270-1270,2015
  • 三井信幸:日本最北の地域における精神科医療の現状と課題,日本精神科病院協会雑誌 34, 14-19,2015
  • 豊巻敦人,久住一郎:認知機能改善療法をどのように増強できるか?,精神科治療学 30, 1473-1478,2015
  • Chen C, Omiya Y, Yang S. Dissociating contributions of ventral and dorsal striatum to reward learning. J Neurophysiol. 114, 1364-1366

5.著書

  • 齊藤卓弥:注意欠如・多動症(注意欠如・多動障害),1503-1505(金澤一郎編:今日の診断指針第7版,医学書院,東京)2015
  • 齊藤卓弥:思春期女子のうつ病,53-70(松島英介編:女性のうつ病 ライフステージから見た理解と対応,メディカル・サイエンス・インターナショナル, 東京)2015
  • 齊藤卓弥:子どもの抑うつ性障害と双極性障害,87-103(傳田健三,氏家武,齊藤卓弥編著:子どもの精神医学入門セミナー,岩崎学術出版社,東京)2016
  • 齊藤卓弥:子どもに対する薬物療法,203-228(傳田健三,氏家武,齊藤卓弥編著:子どもの精神医学入門セミナー,岩崎学術出版社,東京)2016
  • 朝倉 聡:社交不安症とエスシタロプラム,121-127(小山司監修、樋口輝彦/平安良雄編:エスシタロプラムのすべて,先端医学社,東京)2016
  • 朝倉 聡:LSAS, 245-246(山内俊雄/鹿島晴雄総編:精神・心理機能評価ハンドブック,中山書店,東京)2015
  • 朝倉 聡:大学生の不安症(不安障害),10-18(全国大学メンタルヘルス研究会編:大学のメンタルヘルスの現状と課題、そして対策,全国大学メンタルヘルス研究会,岡山)2015
  • 賀古勇輝:生物学的志向の精神医学教室での「私の精神療法」,194-198(牛島定信,「精神療法」編集部編:現在の病態に対する〈私の〉精神療法,金剛出版,東京)2015
  • 賀古勇輝:子どもの統合失調症,71-86(傳田健三,氏家武,齊藤卓弥編著:子どもの精神医学入門セミナー,岩崎学術出版社,東京)2016
  • 柳生一自:子どものディスレクシア(読字障害),136-158(傳田健三,氏家武,齊藤卓弥編著:子どもの精神医学入門セミナー,岩崎学術出版社,東京)2016