令和3年業績 学位

日本人大学生の自尊感情、社交不安、および自殺関連念慮の関連における絶望感の媒介効果
(The mediating role of hopelessness in the relationship between self-esteem, social anxiety, and suicidal ideation among Japanese university students who visited a university health care center)

(修士課程)ヌイェーン・タン・ダット

【背景と目的】

自殺は、特に若年層で深刻な社会問題となっている。2020年時点で、日本の10~29歳の若者の死因の第1位は自殺である。自殺の対人関係理論によると、自殺行動に至るまでに、自殺者は自殺念慮を体験する。さらに、自殺念慮から自殺行動への移行の約60%は1年以内に起こると報告されている。したがって、自殺念慮の危険因子に関するより多くの研究が、将来の自殺予防に役に立つと考えられる。本研究では、日本人の大学生における自尊感情、社交不安、絶望感および自殺関連念慮の関連を検証する。

【研究方法】

北海道大学保健センターを訪れた322人(Mage = 21; 61.8%男性)の大学生を対象に研究を行った。参加者は、Rosenberg Self-esteem Scale, Liebowitz Social Anxiety Scale, Beck Hopelessness ScaleおよびPatient Health Questionnaire 9の質問票に回答した。共分散構造モデルによる自尊感情、社交不安、および自殺関連念慮の関連における絶望感の媒介効果を検討した。

【結果】

重回帰分析の結果では、自尊感情と社会不安が自殺関連念慮の有意な予測因子であることを示した。共分散構造分析の結果は、自尊感情と社会不安が自殺関連念慮に及ぼす影響が絶望感によって部分的に媒介されていることを示した。ブートストラップの結果では、媒介モデルの直接効果と間接効果が有意であることを示した。

【研究の限界点】

本研究の研究デザインとデータ収集方法は問題があるため、研究の結果を一般化するには慎重にならねばならない。また、PHQ-9のItem 9を用いて自殺関連念慮を評価することの信頼性はまだ確立されていない。

【まとめ】

本研究では、低い自尊感情および高い社交不安は自殺関連念慮を予測できることを示した。さらに、自尊感情と社交不安が自殺関連念慮に及ぼす影響は、絶望感によって部分的に媒介されることが証明された。これらの結果を踏まえて、自尊感情、社交不安および絶望感の媒介効果に介入することで、自殺関連念慮を持つ人に対する自殺予防の効果があると考えられる。

【キーワード】

日本、大学生、自殺関連念慮、絶望感、社会不安、自尊心。