平成31/令和1年業績 論文

1.学術論文(* corresponding author)

  • Koga M*, Nakagawa S, Kato A, Kusumi I: Caffeic acid reduces oxidative stress and microglial activation in the mouse hippocampus. Tissue Cell 60, 14-20, 2019
    カフェイン酸の神経系に対する有効性を検討するため、マウスに300mg/kgのカフェイン酸を30日間投与して、海馬における新生細胞の生存、酸化ストレス、炎症性マーカー発現、マイクログリア活性化について検討した。カフェイン酸投与により、神経精神疾患の病態に関わると言われる酸化ストレスマーカーとマイクログリア活性化の抑制が観察された。
  • Higashiyama M, Hayashida T, Sakuta K, Masuya J, Ichiki M, Tanabe H, Kusumi I, Inoue T*: Complex effects of childhood abuse, affective temperament, and subjective social status on depressive symptoms of adult volunteers from the community. Neuropsychiat Dis Treat 15: 2477-2485, 2019
    853名の一般成人を対象に自記式質問紙法検査を実施し、社会的地位の主観的評価や幼少期虐待、気質傾向が成人期における抑うつ症状発現にどのように影響を及ぼしているかについて共分散構造解析を用いて検討した。幼少期虐待は社会的地位の主観的評価や気質傾向に直接的な効果を及ぼし、成人期における抑うつ症状発現に対しては、社会的地位の主観的評価や気質傾向を介して間接的に影響を及ぼしていることが明らかになった。
  • Akechi T*, Kato T, Fujise N, Yonemoto N, Tajika A, Furukawa TA; SUN☺D Investigators: Why some depressive patients perform suicidal acts and others do not. Psychiatry Clin Neurosci 73, 660-661, 2019
    SUN☺D trial に登録された2011例のうつ病患者を対象に、自殺念慮の強さと関連する臨床因子を検討した。何らかの自殺念慮を有する症例は全体の60%であり、初発エピソードが若年で起こること、うつ病の症状が重篤であること、入院していることが自殺念慮の強さと関連していることが示された。
  • Wakatsuki Y, Inoue T*, Hashimoto N, Fujimura Y, Masuya J, Ichiki M, Tanabe H, Kusumi I: Influence of Childhood Maltreatment, Adulthood Stressful Life Events, and Affective Temperaments on Premenstrual Mental Symptoms of Nonclinical Adult Volunteers. Neuropsychiatr Dis Treat 16, 1-10, 2020
    204人の非臨床成人ボランティアにおける月経前精神症状(PMM症状)の重症度に、小児期の虐待、情動気質、成人期のライフイベントなどの複数の因子がどのように影響するかを分析した。単回帰分析と重回帰分析に加えて、構造方程式モデリングを統計分析に用いた。ネグレクトの病歴は、情動気質を通して間接的にPMM症状を予測した。3つの情動気質(易怒性、循環、不安)はPMM症状を直接予測した。
  • Saito T, Reines EH*, Florea I, Dalsgard MK: Management of Depression in Adolescents in Japan. J Child and Adolesc Psychopharmacol 29, 753-763, 2019
    731人の青年期うつ病の治療を行っている医師に対してインターネットを用いたアンケート調査を行った。青年期のうつ病の頻度、治療選択、薬物選択を中心に質問し、本調査から日本では約550,000人の青年期うつ病患者が存在すると推定された。また、日本での青年期うつ病患者は64%で薬物の処方が行われており、ガイドラインで推奨されていない薬物治療も多くみられ、ガイドラインの順守が望まれる。
  • Tsuji N, Okada T*, Usami M,Kuwabara H,Fujita J,Negoro H, Kawamura M,Iida J, Saito T: Effect of Continuing and Discontinuing Medications on Quality of Life After Symptomatic Remission in Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Clin Psychiatry 81, 19r13015, 2020
    児童期と成人期のADHD患者の寛解期において、ADHD治療薬の中止が患者の症状・再燃とQoLに与える影響を評価した研究のメタ解析である。児童期ではADHD治療薬を中止すると、継続した群に比べて、再燃・再発、QoLが有意に悪化した。成人期ではADHD治療薬を中止すると、継続した群に比べて、QoLには有意な差はなかったが、再燃・再発が有意に悪化した。
  • Osawa T*, Wei JT, Abe T, Kako Y, Murai S, Shinohara N: Development of Japanese version of HRQOL questionnaire for bladder cancer patients using Bladder cancer index: a pilot study. Int J Urol 26, 1016-1017, 2019
    Bladder Cancer Index(BCI)は米国において開発された膀胱がん患者の特異的QOL尺度である。日本語版を作成し、膀胱がん術後患者14名に対してプレテストを行った。各質問項目について対象者からの質問、泌尿器科医、臨床心理士からの意見を分析し内容妥当性を検討した。排尿機能、排便機能、性機能の各ドメインに関して良好な内的整合性が示された。
  • Kubo H, Urata H, Sakai M, Nonaka S, Saito K, Tateno M, Kobara K, Hashimoto N, Fujisawa D, Suzuki Y, Otsuka K, Kamimae H, Muto Y, Usami T, Honda Y, Kishimoto J, Kuroki T, Kanba S, Kato TA*: Development of 5-day hikikomori intervention program for family members: A single-arm pilot trial. Heliyon 6: e03011, 2020
    メンタルヘルスファーストエイド(MHFA)と「地域の活性化と家族の育成(CRAFT)」に基づく、引きこもり患者の家族のための教育プログラムを開発した。引きこもり患者と生活する21人の親(父親7名、母親14名)が週に5回のセッションと6ヵ月の追跡で本プログラムに参加した。参加者が抱くスティグマ、引きこもり患者の2つの問題行動と1つの適応行動のサブスケールに対するスキルは、セッションとフォローアップを通して改善した。
  • Hashimoto N*, Toyomaki A, Oka M, Takanobu K, Okubo R, Narita H, Kitagawa K, Udo N, Maeda T, Watanabe S, Oyanagi Y, Miyazaki A, Ito K, Kusumi I: Pilot Validation Study of the Japanese Translation of the Brief Negative Symptoms Scale (BNSS). Neuropsychiatr Dis Treat 15, 3511-3518, 2019
    統合失調症の新規陰性症状評価尺度であるThe brief negative symptoms scale (BNSS) の日本語版を作成し、信頼性、妥当性を評価した。10例の統合失調症患者のBNSSのインタビュー場面を録画し、11名の評価者が評価を行った。日本語版BNSSは高い評価者間一致性、再テスト信頼性、収束的妥当性、弁別的妥当性を示した。
  • Koshiyama D, Fukunaga M, Okada N, Morita K, Nemoto K, Usui K, Yamamori H, Yasuda Y, Fujimoto M, Kudo N, Azechi H, Watanabe Y, Hashimoto N, Narita H, Kusumi I, Ohi K, Shimada T, Kataoka Y, Yamamoto M, Ozaki N, Okada G, Okamoto Y, Harada K, Matsuo K, Yamasue H, Abe O, Hashimoto R*, Takahashi T, Hori T, Nakataki M, Onitsuka T, Holleran L, Jahanshad N, van Erp TGM, Turner J, Donohoe G, Thompson PM, Kasai K, Hashimoto R; COCORO: White matter microstructural alterations across four major psychiatric disorders: mega-analysis study in 2937 individuals. Mol Psychiatry 25, 883-895, 2019
    12施設、2,937例の大規模データを用いて、健常者、統合失調症患者、双極性障害、うつ病、自閉スペクトラム症の微小白質構造を比較した。統合失調症、双極性障害、自閉スペクトラム症で脳梁の異常、統合失調症と双極性障害で脳弓と帯状回の異常、統合失調症で鉤状束の異常を認めた。統合失調症と双極性障害の直接比較で有意な所見はなく、統合失調症/双極性障害とうつ病の比較では、健常者の比較と類似した違いを認めた。
  • Takaesu Y, Watanabe K, Numata S, Iwata M, Kudo N, Oishi S, Takizawa T, Nemoto K, Yasuda Y, Tagata H, Tsuboi T, Tsujino N, Hashimoto N, Matsui Y, Hori H, Yamamori H, Sugiyama N, Suwa T, Kishimoto T, Hishimoto A, Usami M, Furihata R, Iwamoto K, Fujishiro H, Nakamura T, Mizuno K, Inagaki T, Katsumoto E, Tomita H, Ohi K, Muraoka H, Atake K, Iida H, Nagasawa T, Fujita J, Yamamura S, Onitsuka T, Murata A, Takayanagi Y, Noda H, Matsumura Y, Takezawa K, Iga JI, Ichihashi K, Ogasawara K, Yamada H, Inada K, Hashimoto R*: Improvement of psychiatrists' clinical knowledge of the treatment guidelines for schizophrenia and major depressive disorders using the 'Effectiveness of Guidelines for Dissemination and Education in Psychiatric Treatment (EGUIDE)' project: A nationwide dissemination, education, and evaluation study. Psychiatry Clin Neurosci. 73, 642-648, 2019
    本研究は日本の統合失調症薬物療法ガイドライン、およびうつ病治療ガイドラインの内容に関する包括的講習会(各1日)を実施し、その効果を講習前後で実施した理解度調査によって測定したものである。2016年10月から2018年3月までの間に講義に参加した461名中430名から得られたデータを解析し、講習の前後で両疾患ガイドラインの理解度は有意に改善していた。
  • Matsui K, Tokumasu T, Takekita Y, Inada K, Kanazawa T, Kishimoto T, Takasu S, Tani H, Tarutani S, Hashimoto N, Yamada H, Yamanouchi Y, Takeuchi H*: Switching to antipsychotic monotherapy vs. staying on antipsychotic polypharmacy in schizophrenia: A systematic review and meta-analysis. Schizophr Res 209, 50-57, 2019
    本研究は抗精神病薬多剤併用から単剤への減量を試みた無作為割付試験のメタ解析である。合計で341名の被験者が参加した6つの研究のメタ解析の結果、単剤への減量群は多剤維持群と比較して、中断率は有意に高く、再発率、精神病症状、神経認知機能、錐体外路性副作用、体重には有意差はなかった。対象となった研究の質は全般的に低かった。
  • Abe N*, Kato M, Fujieda Y, Narita H, Tha KK, Atsumi T: Tumour necrosis factor alpha blockade for non-inflammatory pain: beyond inflammation? Scand J Rheumatol 48, 519-521, 2019
    安静時機能MRIを用いてリウマチ脊椎炎患者と健常者とを比較し、fronto-orbital cortexとtemporal poleで異常な機能的結合を呈していることを検出し、その異常な機能的結合部位が治療効果(=疾患活動性の減少)と有意に相関したことを見出した。この研究により、痛みを脳で処理する部位の結合が補完的に強まっていることが考えられる。
  • Toyoshima K*, Inoue T, Masuya J, Ichiki M, Fujimura Y, Kusumi I: Evaluation of subjective cognitive function using the Cognitive Complaints In Bipolar Disorder Rating Assessment (COBRA) in Japanese adults. Neuropsychiatr Dis Treat 15, 2981-2990, 2019
    構造方程式モデリングにより、一般成人ボランティア585名における、抑うつ症状、主観的認知機能、および生活の質の関係について検討した。抑うつ症状から生活の質に対する直接効果は有意であり、主観的認知機能を介した間接効果も有意であった。また、生活の質に対する主観的認知機能の直接効果は有意であった。したがって、主観的認知機能は、一般成人の生活の質に影響を与えるひとつの重要な因子と考えられる。
  • Horinouchi T*, Sakurai K, Munekata N, Kurita T, Takeda Y, Kusumi I: Decreased electrodermal activity in patients with epilepsy. Epilepsy Behav 100, 106517, 2019
    難治性てんかんの治療法の一つとして皮膚電気活動を用いたバイオフィードバック療法があるが、てんかん患者の安静時皮膚電気活動についてはよく知られていない。そのため、てんかん患者22名と健常者24名の安静時の皮膚電気活動を測定した。結果として、測定開始後1分間の皮膚電気活動はてんかん患者で有意に低く、発作頻度と中等度に逆相関した。これはてんかん患者での交感神経機能低下を示しているものと考えられる。

2.症例報告

  • Mitsui N*, Oyanagi Y, Kako Y, Kusumi I: Natural recovery from long-lasting generalised dissociative amnesia and of cerebral blood flow. BMJ Case Rep 12, e231270, 2019
    症例は全生活史健忘を来した40代男性。発症2週間後のIMP-SPECTにて右内側側頭葉の血流低下が確認されたが器質的な異常は認められず、失業に伴う心理的ストレスが契機となっていると考えられた。6年10ヶ月後、新しい仕事を開始できた直後に、突然、健忘が改善した。健忘改善後に再度、IMP-SPECTを実施したところ、右内側側頭葉の血流低下の改善が確認された。本症例は、長期間の全生活史健忘からの回復例として貴重であると考えられた。
  • Toyoshima K*, Kusumi I. Controlling the laxative abuse of anorexia nervosa patients with the Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program workbook: a case report. Biopsychosoc Med 13, 23, 2019
    摂食障害における下剤乱用に対する有効な治療法は、現段階では確立されていない。今回我々は、マトリックスモデルに基づいて作成されたSerigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program (SMARPP)ワークブックを用いた心理教育により、下剤乱用が改善した神経性やせ症(過食・排出型)の症例を経験したため報告した。
  • 中村悠一,堀之内徹,櫻井高太郎:ガバペンチン追加によりてんかん発作とパニック発作の双方が軽減した焦点てんかんの1例.てんかんをめぐって 37,31-36,2018・2019

3.総説

  • 久住一郎:精神疾患に併存する抑うつ症状の特徴.Depression Strategy 9,1-3,2019
  • 久住一郎:精神科臨床におけるエビデンスの有用性と問題点 積極的な協力者を募る臨床治験に問題はないのか.精神科治療学35,147-152,2020
  • 齊藤卓弥:発達の視点から見たサイコセラピーとエビデンス.日本サイコセラピー学会雑誌 19,3-9,2019
  • 齊藤卓弥:DSM-5とICD-11における神経発達症.分子精神医学19,27-33,2018
  • 賀古勇輝:シンポジウム1 神経性やせ症~発達による病像の変化と治療上の工夫 自閉スペクトラム症を併存した神経性やせ症の特徴と治療.日本サイコセラピー学会雑誌19,53-59,2018
  • 賀古勇輝:小児科医が知っておきたい精神医学 11.奇妙な言動・幻覚・妄想.小児内科51,1900-1903,2019
  • 賀古勇輝:精神疾患における病識・疾病認識:治療における意義 1.統合失調症における病識と障害認識.精神医学61,1367-1376,2019
  • 賀古勇輝:うつ病におけるリカバリー外来の実際.Depression Strategy 10,12-15,2020
  • 伊藤侯輝,久住一郎:統合失調症のドパミン仮説の現在.精神科治療学34,983-988,2019
  • 橋本直樹,豊巻敦人,久住一郎:統合失調症の認知機能障害.精神科34,214-219,2019
  • 橋本直樹,久住一郎:統合失調症の陰性症状に対する薬物治療・非薬物治療の効果.臨床精神薬理22,653-658,2019
  • 櫻井高太郎:バルプロ酸ナトリウムの向精神作用.精神科治療学34,1401-1406,2019
  • 三井信幸:シンポジウム1 神経性やせ症~発達による病像の変化と治療上の工夫 摂食障害の重症遷延例について.日本サイコセラピー学会雑誌19,44-52,2018
  • 三井信幸,久住一郎:精神科診療マニュアル 他のパーソナリティ障害. 精神科35(Suppl.1),483-486,2019
  • 三井信幸:北海道における指定入院医療機関の設置について〜精神科医の立場から〜.法と精神医療34,95-98,2019
  • 豊巻敦人,久住一郎:食習慣による衝動性への影響.臨床精神薬理22,1095-1099,2019
  • 成田尚:内科疾患とうつ病up‐to‐date 心不全に伴ううつ病.精神科治療学34,793-797,2019
  • 豊島邦義:双極性障害と認知機能障害.臨床精神薬理22,23-29,2019
  • 堀之内徹:Gabapentinの気分障害・不安障害・睡眠障害における有用性と注意点.精神科治療学34,1407-1414,2019
  • 髙信径介:セントジョンズワートの鬱に対する有効性.Medical Herb 49,43-45,2019

4.その他

  • 賀古勇輝:SUN☺D臨床試験のインパクト―日本初の医師主導抗うつ薬大規模臨床試験から学ぶ SUN☺D臨床試験に参加して行った工夫 北海道大学病院から.精神医学62,60-61,2020
  • 伊藤侯輝:口からのむ薬(経口薬)注射する薬(持効性注射剤:デポ剤)ではどちらがよいか?.メンタルヘルスマガジンこころの元気+ 146,28-29,2019
  • 伊藤侯輝:でも先生、ガイドラインにはこう書いてあるんですが・・・(Q3,4,5に対する答え).メンタルヘルスマガジンこころの元気+ 152,28-29,2019

5.著書

  • 賀古勇輝:北海道初の医療観察法病棟の整備について,8-16(木村邦弘編:第5回刑法39条、医療観察法を考えるシンポジウム報告集,精神障害者の自立支援を考える会,札幌)2019
  • Medalia A, Herlands T, Saperstein A, Revheim N著,中込和幸監修, 橋本直樹, 池澤聰, 最上多美子,豊巻敦人監訳:「精神疾患における認知機能障害の矯正法」臨床家マニュアル 第2版.星和書店,東京,2019