平成23年業績 学位
社交不安障害の認知機能に関する研究
藤井 泰
社交不安障害(Social anxiety disorder; SAD)は社会的な状況や他人との交流に対して持続的で強い恐怖を抱く疾患であり、心理学的モデルでは、想像上の他者の視線から自己イメージを形成し、その視点から注意を転換できないことが特徴とされている。従来のSADの疾患理解は、心理学的、精神病理学的理解が主体であり、背景に存在すると考えられる脳機能の障害の観点からは充分に検討されてはいなかった。本研究は認知機能に着目し、SADを認知機能障害の観点から検討することを目的としている。神経認知機能に関しては神経心理学的検査を、社会認知機能については表情認知に関する機能画像研究を行った。
神経心理学的検査では、健常者と比較して、SAD患者においてWisconsin card sorting test、Trail making testで成績低下を認め、実行機能の障害が示唆された。また、臨床症状と検査成績の比較から、検査成績とSADの重症度が相関しており、実行機能の障害がSADの重症度と関連していることが示された。
表情認知研究では、顔表情識別課題中の脳血流をfunctional MRIを用いて測定した。健常者と比較してSAD患者では親近性に関連するとされる後部帯状回と視線の方向に関連するとされる楔部に血流低下を認め、情動識別の困難さの背景として、情動への過敏性以外に親近性の低さや視線の向け方の特異性などが関連していると考えられた。
SADでも、他の精神疾患と同様、認知機能に障害を認めることが示唆された。SADの認知機能障害と臨床予後の関連や、SADの治療が認知機能障害にあたえる影響を縦断的に検討することが今後の課題と考えられる。また、認知機能障害とSADの症状が関連していることから、従来の薬物療法や認知行動療法以外にも、認知機能リハビリなどの新たな治療法がSADの治療に資する可能性があると考えられた。