わが国を含む先進諸国では,子どものこころの問題が大きな社会問題となってきています。 不登校、いじめ、自殺、児童虐待、引きこもりといった問題への社会的な関心が高まっています。このように注目される問題の背後には、うつ病、不安症、注意欠如多動症、自閉スペクトラム症など医学的に治療が必要と考えられる子どもが数多くいるといわれています。
いまだ、子どものこころの問題への誤解や理解不足によって、本来支援を受けるべき子どもたちが支援を受けることを躊躇し、事実に基づいた治療を受けることができない状況は、大きな問題です。世界保健機構(WHO)は、将来子どもの疾患の中で精神疾患がもっとも医療資源を必要する疾患となると予想しています。現在、日本では子どものこころの問題に関わる資源は少なく、十分な治療・ 介入が行われておりません。そのような社会的な要請を背景に、医学ならびに医療に おける児童思春期精神医学の重要性がますます高まってきていると考えます。
現在、社会的にも子どものこころの問題への注目が高まり、子どもの精神科医療は大きな転換期を迎えています。医療・家庭(社会)・学校・心理・福祉・司法が、それぞれ連携し、子どもへの包括的・有機的な介入・支援が必要になってきています。そのためには、子どもの精神科医療にかかわる人材の養成が不可欠と考えられます。
北海道大学病院児童思春期精神医学研究部門は、そのような社会的な要請を受け、包括的な児童思春期 精神科医療を行うとともに、将来の日本の児童思春期精神科医療を担う人材を養成するために設立されました。当分野は、Global standardに基づいた心理・精神的、社会的そして生物学的な評価・診断、症例の定式化(Formulation)、エビデンスに基づいた治療を行うことのできる子どものこころの臨床家を養成することを目的としています。そのために、基礎的および 臨床的な研究を行い、子どものこころの問題を理解することを、いま1つの重要な使命と考えています。
今後、我が国の児童思春期精神科医療を充実していくために、そのような使命を共有できる情熱を持った若い力が当分野に加わってくれることを心から願っております。